プロジェクト成功のカギを握っているのは、プロジェクトマネージャー(以下PM)その人だと言っても過言ではありません。
PMはディレクターとともに制作の進行管理を行い、企画段階からキャンペーン終了まで、制作スタッフを支える縁の下の力持ちとして奔走します。
そんなPMの一人であり、広報も担当されている横川遥さんは「良い物語の記憶をつくりたい」と語ります。
横川さん、“良い物語”をつくるための秘訣って、一体何でしょう?

2015.9.11

取材・文:岡本真帆 撮影:竹内冠太 進行:横川遥 監修:伊藤拓郎

面白いことを周りに届けたい

今回のインタビューの撮影場所に原宿を希望されていましたが、横川さんにとってゆかりのある場所なんですね。

中学生の頃は、今夏休刊になる雑誌の『CUTiE』を愛読していました。当時は“THE 原宿”みたいなファッションを扱う雑誌だったので、ラフォーレ原宿が自分の聖地だったわけですね。高校生になると「裏原系」と呼ばれるブランドが好きになり、買い物でキャットストリートなんかを歩いたりして。だから原宿は学生の頃の思い出が詰まった場所なんです。

当時は将来何になるかなんて全然考えてなかったけれど、いろんなことを経て今こうして原宿近辺に勤めているので、あの頃の自分が知ったらとても驚くだろうなと感慨深いです。

前職ではファッション関係のお仕事をされていたんですか?

いえ、ファッションはあくまで趣味で。

広告制作会社のCSR的な活動をする部署で、自社のスペースで開催するワークショップや展示等の企画・運営・広報を担当していました。国内外からゲストを招いてイベントを主催していたのですが、実際に目の前にお客さんがいて反応が見られるのが、とても嬉しくて。今もイベント案件に携わるとそう感じますが、大変ではありながらも、やりがいがありました。

人の反応を直接見られるのは、嬉しいですよね。

そうなんですよね。翻訳家の柴田元幸さんが『小説の読み方、書き方、訳し方』という本の中で、柴田さん自身が考える翻訳のイメージについて語っているんですね。

“ここに壁があってそこに一人しか乗れない踏み台がある。壁の向こうの庭で何か面白いことが起きていて、一人が登って下の子どもたちに向かって壁の向こうで何が起きているかを報告する。”

それが翻訳するという行為だと仰っています。

私は翻訳家ではありませんが、この考え方にとても共感していまして。幼い頃から、自分が0から何か面白いものをつくる、壁の中にある面白いものをつくる人にはなれないな、というのは感じていたんですね。けれどもその代わりに、編集者のようなことやBIRDMANでのPM・広報の仕事など、「こんな面白いことがある」と人々に知らせるような仕事をこれまでずっとやってきた感じがします。誰かのつくった魅力的なものをたくさんの人に広める、ということがやっぱり好きですね。

来世は、RIP SLYME

前職で2年半働いたある日、Web制作プロダクションに転職しよう、と決めてリサーチを始めたんです。誰かに何かを伝えたり届けたりすることにおいて、インターネットの力は本当に素晴らしいなと思って。そのときにBIRDMANの存在を知りました。実は私、生まれ変わったらRIP SLYMEになろうと決めてるんですけど、この人たちはまさにRIP SLYMEだ!と思って(笑)。

生まれ変わったらRIP SLYME、ですか!?

小さい頃も男の子と遊ぶことの方が多かったんですけど、センスの良い男の子が5人くらい集まってワイワイ楽しくやっている感じに、ものすごく憧れがあったんです。中学生くらいまで男子になりたい!と思っていたくらいで。転職する上で「自分ができることを」という他に、男の子っぽいところで働きたいなという想いがあって。BIRDMANを見つけて、制作物やインタビューを見たり、サイトからリンクしているスタッフ個人のTwitterやブログを読んだりするうちに、この人たちめっちゃ良い!この人たちと一緒に働きたい!という気持ちになっていきました(笑)。

横川さんが入社された時期は、ちょうどデバイスをつかったイベントの案件が増えてきている頃でしたね。

ロボットアームを使ったIntel『PUSH for Ultrabook』や高音質の音楽プレイヤーでクラドニ図形を表現するSONY『オンガクの結晶~ULTIMATE EXPERIENCE』など、美しくもかっこいいものをつくっているなあと。その“かっこいい”の基準が、良い意味で少年みたいだなと感動したんです。自分たちが本当にかっこいいと思うものをつくっている感じがあるし、「実現するのは超大変だけど超楽しい」…そんな空気を感じて、応募しました。実際に入社してみて、思った通りだったなあと、改めて感じています。

Intel『PUSH for Ultrabook』
2013年4月に実施。オンラインから参加できるリアルタイムのプレゼントキャンペーン。世界中から述べ5万人が参加した。

SONY『オンガクの結晶~ULTIMATE EXPERIENCE』
2013年12月、東京ミッドタウンで披露されたインスタレーション。ウォークマン®のハイレゾ音源を音と光で体験できる。

物語の純度を高める

横川さんと一緒に働いていると、とても心地が良いというか…相手をリスペクトして接していることが伝わっていて、気持ちよく仕事ができるんですよね。「みんな私についてきて!」と先導するタイプというよりは、みんなが仕事をしやすい環境をつくるために下ごしらえをしてくださっているイメージがあります。

ありがとうございます。だと良いですね…。PMの仕事って、スケジュール作成や進行管理、クライアントとの連絡窓口になるなど、「つくる仕事をサポートする立場」なのかな、と思っています。いわゆる事務作業もあまり苦ではなくて、誰かが楽になってくれたらいいな~という想いがありますね。

デザイナーさんみたいに何か0から産むことができていない以上、その手助けをしたいというところが強くあって、みなさんが制作に集中できるようにその部分を補いたいと思っています。クリエイティブディレクターやディレクターがいますから、私はみなさんがいかに気持ちよくできるか、というところを大事にしたい。「私が!」という誰かよりも目立とうという欲が無いというか。実際、みなさんとご一緒できているので、それだけでもありがたい、という思いです(笑)。みんなが楽しそうに働いてる~!嬉しい~!っていう(笑)。それを見ていて幸せ…みたいな気持ちがあるんですよ。

横川さん、人格者ですよね。ガンジーみたい。

(一同笑)

光文社『360° PARTY』
2015年9月1日公開のWebコンテンツ。スマホで動かすとパーティ会場内を360°見渡すことができる。

9月1日に公開した光文社70周年記念『360° PARTY』も、直近ということもありますが、印象深い案件です。

撮影は、3連休の日曜日と祝日の2日間を使ったのですが、撮影スケジュールや美術セットの準備を前日まで調整して。現場で押さえておかなければならないカット数が多かったので、とても緊張しました。360°の撮影自体誰も経験がなかったので、クリエイティブディレクターの長井さん、フォトグラファーの竹内さん、デザイナーの渡部さんとは、間違いや抜け漏れが無いように、直前まで打ち合わせを繰り返して。毎日文化祭の準備をしているかのようでした。

初日の撮影終了後、23時過ぎから近くのカフェで反省会と2日目のシミュレーションをしてたんですね。朝7時から現場にいてみんな疲れているのに、更に良くするために何ができるかを考えてくれていて、このチームで仕事できてよかったなあと思いましたね。撮影が無事に終わった瞬間は、本当にほっとしました。

横川さんって、誰が何をしていたのかよく見てらっしゃいますよね。覚えてて、かつそれをVineで記録したりとか。

反省会…の前にカンパイ(撮影:横川)

そうですね。記録することが好きなんです。忘れたくないんですよね。一つ一つの案件を物語のようにしたいなと思っていて。

物語、ですか?

映画の『インサイド・ヘッド』みたいに、作り始めからローンチするまでの各エピソードが、それぞれボールとなって頭の中を転がっていって、収まる。すべて物語として自分の中に記憶されているんです。つくっている作品も面白いし、手がけている人たちも素敵なので、それを周囲に伝えないわけにはいかないだろう、と思います。

なるほど。PMとしてみんなが働きやすいように環境を整えたり、広報として周りに広めていくというのは、思い出や物語の純度を高めているという感じがしますね。そういう意味ではどちらも繋がっているんですね。

そうですね。そして、やっぱり“良い物語”であって欲しいんですよ。良い物語かどうかは他の人にも見えることなので、良い物語・良い登場人物に見えるように振る舞いたいです。広報として社内のことを書いて広めることもそうですし、打ち合わせの場での説明の仕方も同じだと思っていて。例えばデザイナーさんが不在の打ち合わせで、デザイナーさんのこだわりの部分をきちんと伝えるとか。デザインや実装の説明の仕方で、いない人の気持ちまで相手にしっかり伝われば良いなと思っているんです。いかにこの精鋭たちが心を込めて作っているのかをちゃんと見せたいし、代理店やクライアントなど、一緒に働いている人たちに仲間の気持ちが伝わってほしいと思っています。

良いものをつくるために

最後に、横川さんが今後BIRDMANでチャレンジしていきたいことを教えてください。

今まさにBIRDMANとしても手を広げている、映像やデバイスがメインの案件は、こちらの経験がないためにスムーズに動けていない部分も多々あるので、さらに知識をつけて上手くみなさんをサポートしていきたいと考えています。映像チームもデバイスチームも、それぞれ3〜4名と特に人数が少ないチームです。もっとこちらで下ごしらえの部分のカバーができれば、彼らの本職であるクリエイティブに充てられる時間が増え、さらにクオリティアップができるんじゃないかと思うんですよね。みなさんプロですし、何よりいい人達だから、制作以外の細々とした作業の部分も進んでやってくださるんですよ。でも、本当はもっとこちらで巻き取りたいなと思ってます。

より良いものをつくるために、そしてみなさんがより輝けるように動きたいですね。

横川 遥(よこかわ はるか)

Project Manager
1983年生まれ。埼玉県越谷市出身。2006年、青山学院大学英米文学科卒業。編集、イベント企画・運営などの仕事を経て、2013年11月よりBIRDMANに所属。
これまで携わった案件に、NHK『TOKYO PHOENIX カラーでよみがえる東京』、BIRDMAN『ZEN TOILET』、BALS『Francfranc 100 GIFTS Christmas Story』、crocs『8BIT FAMILY』、光文社『360° PARTY』など。
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