2017年4月現在、BIRDMANのCG&ムービーチームには5名のCGデザイナーが在籍している。
CGモデリングやアニメーション、映像の撮影や編集など、
彼らが手掛ける領域は幅広く、アウトプットも多岐に渡っている。
プロジェクトによってまったく異なる動き方をしている彼ら。
一体どんなメンバーが集まり、それぞれ何を得意としているのだろうか?
高松、山田、嘉数の3名にインタビューを行った。

2017.4.26

取材・文:岡本真帆 進行:横川遥 撮影・監修:伊藤拓郎

高松文(27)
2016年9月入社。

山田雄太(29)
2015年4月入社。

嘉数翔(33)
2015年11月入社。
チームリーダー。

アニメや映画などのインプットを少しでも活かしたい

高松さんはプロジェクションマッピングをはじめとする、インスタレーションを得意とするプロダクションに在籍されていたと聞きましたが、もともと映像に興味があってこの業界に来られたのでしょうか?

高松: そうですね。高校卒業後に就職した1社目の会社でまず6年間、製品紹介などのVideo Package(以下、VP)をつくる仕事をしていました。VPって、画面に要素をきれいにレイアウトして収めていかないといけないので、それがだんだん窮屈に感じるようになって。デザインにも興味があって、店舗のデザインやインスタレーションをやってみたいと思っていたころに、ちょうど世の中でプロジェクションマッピングが注目され始めたんですよ。初めて見たときは、「こんな、(画面の)四角にとらわれない映像演出の仕方があるんだ!」と感激して。枠を飛び越えられることがとても新鮮でした。それから、どうしたら自分にもこんなものがつくれるんだろう、と勉強したい気持ちが出てきて、前職の制作プロダクションに転職しました。

そちらでは、インスタレーションを中心に幅広いことを経験されたそうですね。

高松: もともとは映画を制作する会社だったので、撮影チームがあったりするんですが、私はインスタレーションに力を入れるような“なんでも係”のチームにいました。ディレクションしたり、演出考えたり、美術をつくったり。なんでも係です(笑)。

なるほど。今手掛けているようなお仕事とは、また少し違うことをやっていたんですね。

高松: 先日リリースされた『The Mother of Internet – インターネットの歴史 – 』では、メインとなるキャラクターのアニメーションを担当したのですが、実はWebコンテンツをつくるのは初めてで。モーションの緩急や気持ち良さについては、好きなアニメやVimeoのムービーにヒントをもらっています。

The Mother of Internet – インターネットの歴史 – / Yahoo! JAPAN
インターネットの歴史を巨大なイラストで表現した特設サイト。

『The Mother of Internet』は私も制作メンバーだったのでよく覚えているのですが、キャラクターに一瞬ノイズが走る演出については、高松さんの方からリファレンスとともに提案していただきましたよね。

高松: そうですね。映画『シュガーラッシュ』の中で、主人公・ヴァネロペちゃんの体にブロックノイズが走るシーンがあるのですが、演出をつめていく中であのイメージが浮かびました。今回のテーマにも合っていたので参考にできるかな、と。

普段から観ているものが高松さんの中に蓄積されているのがよく分かったエピソードでした。おかげでとても仕事がスムーズに進むことを実感しました。

高松: 仕事以外の時間に吸収したものが、少しでも活かせればと思っています。もともとアニメや映像は好きなのですが、自分の引き出しをつくるためにも、普段からいろんなものを観ることは心掛けてますね。

なんでもできる、ジェネラリストでありたい

山田さんは、大学卒業後の当初は映像やCGとは関係のないところでお仕事をされてたんですよね。

山田: そうですね。スーパーで働いていました。担当は生鮮食品以外の全部で。

嘉数: えっ!そうだったんですか!

高松: でも、ちょっと似合うかも(笑)。

山田: 大学で経営やマーケティングを勉強していたんですよ。マーケティングって、スーパーにも繋がる部分はあるじゃないですか。その当時はそんなにやりたいこともなかったので、とりあえず就職しようという流れで。

その後、HAL東京に入学されたそうですね。きっかけは何だったのでしょうか?

山田: 当時Perfumeが好きで、MVを結構観てたんです。2011年とか、その辺りですかね。それ以前から何かをつくってみたい気持ちはあったんですが、MVを観たことで少しずつ映像に興味が出てきて。スーパーの仕事を続けていくのもいいけれど、一回やりたいことをやろうかなと思って、学校に入ってみました。きっかけはPerfumeだけではなくて、ピクサーの映画が好きだったというのもあります。あとはゲームをやっていても、ゲーム本編よりも間に流れるムービーを観るのが好きだったりとか。それで、最初はCGに興味を持って勉強を始めました。そこから映像全般に興味が広がっていきましたね。

ピクサーの映画が好き、というところは、山田さんのアニメーションのお仕事に活かされていますよね。『GLICODE』のハグハグの動きは社内でも好評でした。一方で『IS JAPAN COOL?』のお仕事では、現場での撮影も担当されていますね。

山田: はい。前回の『IS JAPAN COOL? MATSURI』は日本各地のお祭りを紹介するプロジェクトで、実際に現地に取材に行き、お祭りの様子を撮影していました。お祭りは一発本番で再撮影のチャンスが利かないものなので、かなり緊張しましたね。
町中を歩き回って撮影するんですが、結構心配性なので、常にバッテリーやレンズは欠かさず出かけるようにしていました。

GLICODE / グリコ
キャラクター「ハグハグ」のリギング、アニメーションを担当。

IS JAPAN COOL? MATSURI / ANA
お祭りは一回限りの大イベント。撮影のチャンスを逃すまいと奔走した。

旅する氷結 / KIRIN
転がりながら登場する缶は、広告グラフィックに寄せたライティングで1コマずつ撮影。

山田さんは他にも社内での写真撮影なども担当されていますが、本当に幅広くやっていますよね。本来だったら分業するようなところも担当されているイメージです。一見、CGと静止画撮影、動画撮影はまったく別物のように思えますが、ご自身はいかがでしょうか?

山田: カメラの知識があると、CGをやる上でそれが活きてきますし、レンズを通してものが映る仕組みを知っておくと、フォトリアルなCGをつくるのに役立ってきます。そういう意味では、それぞれ繋がっている部分があると思うんですよね。
担当するものを細かく分業する制作も良いんですけど、僕はもともとジェネラリストになりたかったというのがあって。なんでもできる人になりたいんですよね。だから手広く経験できるのは、自分にとってもプラスになっているかなと思います。

企画からアウトプットまで、すべてのプロセスに関わるために

嘉数さんも幅広くいろいろやられていますよね。大学時代はプログラミングをされていたとか。

嘉数: 沖縄出身で、大学までは沖縄に住んでいたんですけど、大学では情報工学専攻でプログラミングを学んでいました。CGをやろうと思ったきっかけは、高校時代に観た映画の『スターシップ・トゥルーパーズ』で。これが結構面白かったんですよ。それまでの映画は暗いところでCGが使われていることが多かったんですけど、これは昼間の明るいシーンでCGがごりごりに使われていて。はっきりきっちり見せて、CGをガンガン出してくるというのがかなり衝撃的で。それで高校生の頃からCGをやろうとは思っていたんですけど、大学進学のときにはそこまでCGを突き詰めていかず、一度四年制大学に入ったんですね。大学ではC言語とかJavaとかそういうのを扱ってましたが、やっぱりCGがやりたくて、卒業後はそのまま東京に上京してデジタルハリウッドに進学しました。

その後はテレビ局のCG会社で映像制作をされていたんですね。

嘉数: はい。テレビの局内で流れるようなCGの映像をつくってました。初めは楽しかったんですけど、毎年1年のルーチンが一緒なので、少しずつ飽きてきてしまって。これは高松さんも言ってたことなんですけど、16:9の中でしか表現できないことに物足りなさを感じるようになってきたんですよね。尺についても、もっと長いものをつくりたいなと思って、プロジェクションマッピングやMVのCGなどをつくる会社に転職しました。

なるほど。前職でも幅広くチャレンジされてたんですね。

嘉数: ただ、前の会社は、プロジェクションマッピングをやるとしても、他の会社と連携してやったりして、自社で完結させることはなかったんですよ。一から関われて、最後まで自分の手でできるような働き方がしたいなと思っていました。企画の段階も知りたいし、最後のアウトプットにも関わりたい。その一部だけをやっても物足りなくて。そのプロジェクトが、どういったステップを踏んで世の中に出ていくのかを知りたいと思っていました。そういう意味では、BIRDMANに入ってからは企画段階から参加して、きちんと最後まで見届けることができています。

IS JAPAN COOL? MATSURI / ANA
浅草の三社祭や青森のねぶた祭り、佐賀の面浮立の様子を撮影。

IS JAPAN COOL? MUSEUM/ ANA
オープニングのCGムービーや、WebGLのコンテンツ内に登場するCGオブジェクトの制作を担当。

不思議な晩餐会へようこそ / SCRAP
テーブル上で展開される新たな謎解き体験を、魔法のようにきらびやかなエフェクトで演出。

『不思議な晩餐会へようこそ』は、それこそ最初から最後まで関わっていた案件ですよね。プロジェクションマッピングをつかった新しい謎解き体験で、演出が企画の肝になっていたと思います。

嘉数: そうですね。これは高松さんと二人で分担しつつ、Unreal Engine(アンリアルエンジン)を使ってチャレンジした案件でした。実装チームと話し合いながら、データの渡し方も工夫していましたね。素材だけを渡すというよりは物までつくって、ゲームに組み込んで渡す、といったディベロッパーが本来担当する領域に入り込んだ制作の仕方をしていました。

それぞれのこだわりを大切に、クオリティを追求する

普段のチーム内での情報共有はどのようにされていますか?

山田: いろいろですね。一緒に案件を進める中で話すこともありますし。

高松: 教えてほしいことがあれば、ふらーっと聞きに行ってます。例えば『The Mother of Internet – インターネットの歴史 -』は山田さんと一緒に進めていたんですけど、山田さんにアニメーションについて教えてもらったりとか。

『The Mother of Internet』の動きの演出はメインとなるキャラクターのアニメーションと、それぞれの歴史のエリアに存在している人々のアニメーション、大きく分けて2種類ありましたね。

高松: サイトの一番下までスクロールするとムービーの演出が始まり、再びTOPページまで遷移するような仕組みになっていますが、私は映像の中のアニメーションをメインで担当しています。山田さんは歴史エリアの人々のアニメーション全般を担当してくれていました。

近くでその仕事ぶりを見て、いかがですか?

高松: 山田さんは仕事が細かい!

山田: 細かい、ですかね(笑)?

高松: いや、細かいですよ!こだわりがあるし、丁寧で、すごいなあって思います。

山田: 変なこだわりが出てきちゃうんですよ。自分の中でしか分からない、みたいな。

あ、でもそういうのってすごく大事だと思います。

山田: 時間は限られていますが、できる限り、ギリギリまで突き詰めていきたいですね。

嘉数さん、お二人と一緒にお仕事をされていて、どうですか?

嘉数: 二人ともすごく、一生懸命ですよね。新しいこともたくさん覚えるし、作業も早いし細かいし。すごいなあと思いますよ。それぞれにこだわりがあって、それを目指してやっている。だからいいものができるんだと思います。

一番に「やりたい」を尊重するチームでありたい

ムービーチームのみなさんって、お話していて穏やかさを感じるんですよね。チームとしてのまとまりもあって、安心できるというか。でもこうしてお一人ずつ考えていることについて伺ってみると、静かな中にも熱い気持ちが感じられます。

嘉数: たしかにそうかもしれません。穏やかにしているけど、各々考えていることはしっかりしていますよね。

たとえば新規案件の話があったとき、嘉数さんはどのように仕事を割り振っていますか?この仕事はこの人が向いてるなとか、そういった判断をするんでしょうか。

嘉数: 向いているかどうかと、やりたいかどうか。一番大事なのはやりたいかどうかだと思うので、僕はまずそれぞれの気持ちを尊重するようにしています。

Robert Sundelin さんの作品集
https://www.behance.net/robsundelin

CG&ムービーチームはこの春、スウェーデン人のRobert Sundelinさん(以下ロブさん)と新卒の山田真帆さんが加わって、これまでの3人体制から5人体制に変わりましたね。

嘉数: ロブさんはかなり高いスキルをもったCGデザイナーで、Instagramでもちょっとした有名人らしいんです。先日アップされた作品の一つに海に浮かんでいるボールをCGで表現したものがあるのですが、どんどんリツイートされて広がっていく中で「海にこんなもの捨てるなんて信じられない!」というクレームが来たそうで。一目ではCGだと分からないくらいリアリティがあるんですよね。

ロブさんの存在は、新卒の真帆さんにとっても大きな刺激になりそうですね。

嘉数: そうですね。真帆さんはCGだけでなくデザインもできるし、「いろいろ覚えたい」と非常に意欲的な方です。さまざまな得意分野を持つ人が集まったチームの中で、映像制作やプロジェクションマッピングなど、いろんなタイプのものを体験して、自分が好きだと感じるものを見つけてくれたらいいなと思います。

山田真帆さんの作品集
https://www.instagram.com/mah.033/

5人になって能力の幅も広がった感じがしますね。現時点で、嘉数さんが感じているチームの変化は何かありますか?

嘉数: 新しい人が入ってきたことでみんなに少しずつ余裕ができて、これまでなかなか進められなかったR&D(自主制作)にもチャレンジできるようになりました。R&Dや勉強の時間が取れればスキルも自然と上がっていきますし、それが案件に活用できるものになっていく。いい循環ができてきたのかなと思います。
みんなそれぞれ長所があって、やりたいこともたくさんあります。各々の良いところを伸ばしていってチームに還元しながら、より良いものがつくれたらいいですね。どんどん新しいことも覚えて、積極的にトライしていきたいです。