ファッションを中心としたデザイン会社やマス広告の制作会社を経て、2010年にBIRDMANへ入社した星川淳哉さん。
冷静な観察眼とユーザーを常に意識した丁寧なデザインアプローチはクライアントからも評価が高く、
社内の人望も厚いアートディレクターです。
そんな星川さんが仕事をする上で、大切にしていることとは?星川さんのデザインに対する想いに迫ります。

2014.10.20

インタビュー:岡本真帆 撮影:竹内冠太 協力:伊藤拓郎、山田繭、横川遥

DJとしての活動を経て、デザインの世界へ

星川さんは大学では建築を学んでいたとのことですが、もともとデザインに興味があったんですか?

高校二年生のころにクラスメイトの影響で安藤忠雄氏の建築に興味をもったことがきっかけでした。

建築って、人の生活をデザインしていくところがあって、うわべだけではなく、すべての住み手、使い手のニーズを満たすことを前提として、その上にいかに創造的なものをつくっていくか、ということをやっているんです。そこに魅力を感じましたね。それで、建築学科に進むことに決めました。

なるほど。大学生のころはどんな学生さんでしたか?

普通の大学生らしくたくさん遊んでましたね。授業が終わったらいつも渋谷の宇田川町に行って。当時は宇田川町がアナログレコードのメッカで、毎日レコ屋通いしてました。バイト代はほとんどレコードに消えていって、月10万円以上買ってた時期もありました。当時は1枚1000円しないくらいだったので、月によっては100枚以上レコードをDigったりして。今よりもずっと自由にお金を使っていたなぁと、改めてゾっとします(笑)。

大学のころからDJをやっていて、いくつかミックステープ作品をリリースしたり、結構真剣に活動してましたね。渋谷のDMRやManhattan Records、HMVなどの店舗に卸して販売していました。

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かなり本格的ですね!

はじめは友達のデザイナーにジャケットのアートワークをつくってもらっていたんですが、途中からやっぱり自分でつくりたくなってきて。コンセプトと自分が示したいビジュアルをもっとストレートに表現できたらいいな、と。それがデザインに興味をもつようになった入り口でした。

表現したい想いはあるけど、ツールの使い方とか入稿データのつくり方とか、システマティックなデザインの基本が全然わかってなくて。そういうことをどこかでちゃんと学びたいなと思って、大学卒業後の1年間、DJをやりながらデジハリに通いました。

デジハリ卒業後は、かねてから心の中に抱えていた『今後活動していく上で、少なくとも言語の壁で自己表現の幅を狭められたくない』という想いから「海外に行くならこのタイミングしかない!」と、語学留学を兼ねてカナダに行きました。自分のキャリアスタートが遅れたことをポジティブに捉えて、「今しかできないことをどんどんやろう」って思ってたんです。

語学を学ぶ目的のほかに、世界のさまざまな文化に触れたいと思っていたこともあって、留学先は移民率50%以上を誇るカナダ最大の都市トロントにしました。当時はデジタルクリエイティブが徐々に広まってきた時期でもあり、海外クリエイティブをカルチャーとして肌で感じることができる貴重な時間でした。

グラフィックデザインを経験後、マス広告の制作会社へ

日本に帰ったらどうするか、という構想はトロント滞在中から持っていたのですか?

ずっとグラフィックの仕事をやりたかったので、帰国してグラフィックがメインの会社を探していました。

そしてデザイン会社のSIMONE(シモーネ)に入られたんですね。

当時はグラフィカルな紙表現にものすごく興味があったこともあり、入社後、何を勘違いしたのか「WEBはやりたくないからグラフィックをやらせてください!」と言い続けていました(笑)。ファッションブランドのWEBサイトをつくることが多かったですが、しぶとく言い続けていたおかげか、某ファッションブランドのブランドブックの制作もやらせてもらったりして。ファッションというのはインスピレーションをすごく大事にする仕事が多く、とても刺激的なのですが、デザインをもっと広告的な視点からロジカルに突き詰めていくプロセスを学びたいと感じ始める自分に気づき、その後、マス広告の制作会社TOKYO GREAT VISUAL に転職しました。そこではかなり忙しく、地獄のようにビジーな日々を送っていましたが、マス広告の経験を十分に積むことができました。

星川さんがBIRDMANに来られたのは、2010年ごろですね。

最初の会社では「WEBはやりたくない」と言ってたりした時期もありましたが、ここでWEBのポートフォリオが結構増えて。自分の実績をより活かせるようにと、WEB制作に特化した会社を志望して何社か調べていく中で、最終的にBIRDMANに入りました。最もキャラ立ちしていてエッジが効いていたので、何か大きなことができそうな雰囲気があったんですよね。

初心に帰る、常に疑う

NISSAN JUKEのお仕事で代理店から「BIRDMANさんのデザインはいつも一発OKなんですよ」と評価していただけた、という話を伺いました。そういった信頼感はどこからくるのでしょう。

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そもそもデザインって、アートではなくて機能なんですよ。説明なしにきちんと伝わるもの。そこをしっかりケアできていたから、そういった嬉しい言葉を言っていただけたのだと思います。僕らは毎日同じデザインとにらめっこしながらちょっとずつ作業していく訳ですが、常にエンドユーザーのことを考えて向き合っていかないと、真夜中に書いたラブレターみたいに表現がどんどん自己中な恥ずかしい方向に突き進んでしまうことがよくあります。「本当にそれがベストなのか?」といつでも客観的に観察できること、初心に帰ってまっさらな状態で、つくっていたデザインと対峙できることが大事です。例えば、「これって、ズブの素人の彼女にもきちんと伝わるかなぁ・・・」て感じでね(笑)。

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JUKEもなるべくシンプルで直感的にわかるものをつくろうと意識していました。そもそも、この案件はアプリっぽい要素が強いので、まずは触って楽しんでもらうことを目的にしていて。

クライアントから「説明文を入れて分かりやすくしたい」とお戻しがあったときに、僕はこう伝えました。「これはアプリをつくっているんだと思ってください。Googleマップを見たときになんの説明もなく、なんとなくクリックしたりドラッグしたりして、だんだんその魅力にはまっていくように、このコンテンツもその体験行為自体に意味があるんです」と。そう話すと、すべて納得してもらえました。

クライアントの要望すべてをそのまま取り入れようとすると、デザインが破綻してしまうケースも少なくありません。だからこそ、そこで考えなきゃいけないんですよね。ユーザーにとって本当に大事な情報とは何なのかを見極めて、クリエイティブとしてどこにそのバランスを置いていくのか。

クライアントも僕らもコンテンツをより良いものにするために意見を出している。言い方が違うだけで目的は一緒なんです。みんなが思っているものをエンドユーザーにとって分かりやすいベストな形でアウトプットするというのが、僕たちデザイナーやアートディレクターの役割だと思います。

星川さんのデザインのビジュアルには驚きや納得感があるなと思います。

ビジュアルの見せ方について、何事も意識的に捉えることが大事だと考えています。

僕は応募要項みたいな誰も見ないような部分のデザインにこそ、デザイナーの真価が問われると思っていて、そこを手抜きする人やそもそも見えていない人は、たぶん物事を丁寧に見られていない人だと思います。常に自分のデザインを疑って、もっと良くするにはどうすればいいか、というマインドのもと、目に映るもの全てと日々向き合っていかないと気づかないことかもしれません。文字組や文字詰め、余白の取り方、パーツのシャドウの落ち方とか、挙げればキリがないけど、全体のビジュアル以外のちょっとした気の使いよう、その配慮の積み重ねがコンテンツの厚みになっていく。単純にそのまま流しても誰も気にしないかもしれないけど、どこかほんのり感じる空気感のクオリティが確実に上がってくる部分だと思います。

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そういった「もっと良くするために常に疑う」という姿勢はいつ身についたのでしょうか?

今思うと、忙し過ぎてギリギリのところでやっていた時期があったからですね。業界全般に言えることですが、数年前から比べると制作スケジュールが半分くらいになっていて。でもスマホやタブレットなど対応しなくちゃいけないメディアが増えてきている。決められた時間の中でいかにクオリティを上げるか、ということを常に意識するようになりました。当然ですが、クオリティアップの為とは言え、ディレクターに「ちょっとスピード感遅いかな…」と言われた瞬間に、そのディレクターの信用を失うこともあるわけで。スピードとクオリティを求めるために、どこで効率アップを図るかというのを考えるのは大事ですよね。手抜きするという訳じゃ全然なくて、時間をかけなきゃいけない部分に時間をかける為の効率化というか。自分のデザインを疑う時間をきちんと確保する為というか。なかなか難易度の高いことだとは思いますが、一個一個、適当に処理していくのではなく、結局丁寧につぶしていくしかないですよね。

日本の某自動車ブランドが、クルマのデザインを右利きのデザイナーにあえて左手で描かせたっていう逸話があって。「利き手だと描き慣れた惰性の線を描いてしまうから」だと。それを利き手じゃない方で行えば、脳が「ちゃんと描かなきゃ」と意識的になる。そういう、惰性でデザインしないっていうのは大事だなって共感した覚えがあります。デザインソフトで何となくイイ感じに仕上がってしまう的な、惰性のデザインから距離をおくようにする意識は大切なことだと思います。「脳をちゃんと動かしてデザインする」ですね。

星川さんが手掛けたものが、どれひとつ同じデザインアプローチではないっていうのも、そういう「惰性でつくらない」ところがあるからなのかもしれないですね。

とはいえ、効率的にそんなのが生まれてくるわけではないですからね。スーパーマンみたいに(笑)。そりゃあ、すごい努力をしないと。やっぱりデザインってゼロからイチを生み出したりもする大変な仕事で、苦しい部分がほとんどだと思うんです。だけどそこさえ生み出せれば、あとはその流れに乗ってつくっていけばいい。まずはそこの“苦悩する”という部分をポジティブに捉えて、課題解決に向かって自分のクリエイティブを発揮することが大事ですよね。

人の想いに火をつける、思想のあるデザイン

星川さんは、WEB業界など自分がいる位置だけではなく、海外の事例や、他の広告メディアなど、広告以外の音楽や建築にも造詣が深くて、いろんな目線を持っている方ですよね。そのバランス感覚があるから、お話にも説得力がある気がします。

僕が建築を諦めたひとつの理由としてあるのは、建築って、人の想いすべてを把握してデザインしなきゃいけないってことなんですよね。
建築はその人の生活の基盤でもあり、そこでその人の人生ドラマが生まれる。そういうものに対してどういう思想で、どういう機能美を提供するか?みたいな、哲学も歴史も思想もわかった上でトレンドも把握して、その中でちゃんと生活できるユーザビリティも発揮して…みたいな、もう、すべてを創造する行為だと思うんです。神様じゃないと建築物って建たないんじゃないか?!っていうくらいの大がかりなことだなと。建築は自分にとって、とんでもなく大きすぎる哲学でした。

果てしない創造行為なんですね。

そうですね。その人にとっての地球をつくってあげるようなものですよね。でも最近、WEBの考え方も建築にすごい似てるなと思っていて。WEBも人の想いに火をつける仕事。さらにメディアも多様化して、行動範囲もターゲティング広告が当たり前のさなか、タッチポイントも増えている。どこに対してアプローチしていくのか。ありとあらゆることを配慮して、その先を、先手を打っていかなきゃいけない。そういうところは建築の考え方に似ていると思います。

建築はたくさんの視点を持っていないとなし得ない行為で、そのことが星川さんの現在の視点の多さに結びついているのかもしれませんね。

さっき、デザインは機能だと言いましたが、とはいえ自分にしかできないアウトプットみたいなことは常に意識するようにしてます。時には、そこに込める思想みたいなものがデザインを大きく昇華させるケースも少なくないかなぁと。明確な意図や思想を感じさせるようなデザインを目にしたときに、「あぁ、やられたなー」て悔しい気持ちになることもありますね。それがうっかり身近な人だったりすると、その気持ちも倍増しちゃったり(笑)。

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グローバルスタンダードで勝負する

これから星川さんがアートディレクターとして目指すものを教えてください。

僕たちの仕事はあくまでもソリューションを考えることが第一です。と同時に、一般のユーザーが最初に触れるものは、まずはビジュアルであったりもします。だからこそ、そこのクオリティ意識は常にグローバルスタンダードで考えてないと、どんどん時代遅れになってしまうと思っています。

UI設計に優れたFantasy Interactiveという会社があったり、いつもアウトプットのクオリティが高いNorth Kingdomだとか、他にもUNIT9B-REELfirstbornとか、あげればキリがないですが。デジタルというジャンルで言えば、FWAランキング上位会社は技術力もさることながら、いろんな意味でクオリティが非常に高いので、作り手として常にそういった次元で制作することが当たり前の感覚で、日々目の前のものと向き合っていくべきだと思います。幸いにもBIRDMANはFWAも多く獲ってるし、海外の案件も少なくない。国とクライアントは違えど、勝負するならそういう人たちと切磋琢磨していきたいですね。

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星川 淳哉(ほしかわ じゅんや)

Art Director
DJ、グラフィック・ウェブデザイナーを経て、2010年よりアートディレクターとしてBIRDMANに所属。主な実績として、Nissan - JUKE / PUMA - Run Navi / エバラ - お口の中の遊園地 / KIRIN - Dream Race / Uniqlo - UU Map / Intel - Pop Up Theater / Sony - Sound Premium / Nikon - Eco Journey / 資生堂 - 専科 など他多数。カンヌ国際広告祭、ONE SHOW、NY Festival、FWAなど多くの広告受賞歴あり。
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