モデリングに夢中になった院生時代
竹内さんは写真もできて、ムービー編集もできて、CG制作もできて…と何でもできる方!という印象です。どれも学生時代に学ばれていたんですか?
まずCGに関しては、大学院でサービスデザインについて学ぶ中で出会いました。
ダニエル・ピンクの『ハイ・コンセプト』という本を読んで、自分の中にあるクリエイティビティをもっと社会に還元したいと思うようになったんですね。じゃあその方法論を学ぶための環境はどこにあるんだろう?と調べたときに、KMD(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)が適しているなと分かって。大学卒業後KMDに入って、医療のサービスデザインの研究をしました。
その中で、プロダクトデザインについてじっくり学ぶ時期があり、デザインを行う上でのルールや基礎から、3Dプリンタを使った立体データ化まで教わってたんですね。そこで僕の人生に初めて3D CG制作ソフトのCinema 4D(以下、C4D)というものが出てきたと。
研究の一環で出会ったんですね。
C4Dを紹介されたときのワクワク感は半端じゃなかったですね(笑)。もともと中学生の頃、学校のPCに3Dのソフトが入っていて、夢中になっていじっていた時期とかあったんで、それをまた好きにできる!という期待感、というんですかね。今でこそC4Dはメジャーですが、当時は日本語のリファレンスがあまりなくて、Greyscalegorillaというクリエイターのサイトに公開されているチュートリアルムービーを片っ端から全部見て、フォトリアルなものから抽象的なものまでひたすらモデリングしてました。授業以外の時間も没頭するくらい。
映像編集もそんな授業の中で身についたスキルなんですか?
父親が代理店やテレビ局に勤めていたので、小さい頃から映像は身近にあって。小学生のときも放送部で15分番組をつくるために取材に行ったり、スタジオ撮影をしてテロップを入れたり、大学生のチューターと一緒に編集したりしてました。大学時代も部活動の勧誘動画を撮ったりしていたので、映像に関わることはもともと好きでしたね。
修士2年目のあるとき、大学院での普段の活動を対外的に発表する催しをニコファーレでやることになって。そのイベントのオープニング映像や登壇者が出るときのアタック動画などをまるっとつくらせてもらうことになったんです。
おお!それは大きな話ですね。
学生内でやろう、という話になったときに「冠太が一番やりたいんじゃない?」とみんなが言ってくれて決まったんですよ。でも初めはAfter Effectsとかまったく使えなかったので、納品形式を言われても何のことか分からなくて。それでも、友達や後輩がいろいろ手助けをしてくれて、みんなで力を合わせてイベントは無事乗り切れました。
初めてフィットすると思えたものが、写真だった
大学院卒業後はどんなことをされていたんですか?
インターンをきっかけにリクルートに入社しました。人の経験をデザインするのは面白いなと思ったのと、ある程度規模の大きな組織に入ってやってみたいと思っていたので。研修が終わってからは「じゃらんゴルフ」というゴルフ場の予約サービスに配属になり、ディレクターをやっていました。そこに1年半くらいいて、それから会社を辞めて。
辞めちゃったんですか!
そうなんですよ、若気の至りだったりするんですけど…。僕は「自分にフィットしているか、フィットしていないか」というのを本能的に感じる力が強い方だと思っていて、チームのマネジメントを考えることってなかなか面白いなと思う一方で、数字を精緻に分解して追いかけていくことにワクワクできなかったんですよね。自分にとって一番幸せな状態って、「好きなことである」「良いアウトプットが出せる」「他人からも評価される」この3つが重なるところだと思うんです。
実は社会人1年目のその頃が本格的に写真を撮り始めた時期でして。
ということは6年前ですね。写真を撮られてかなり長いのだと思っていたので、意外です。
コンデジは大学院の頃から始めて、一眼レフを手にしたのがこの時期ですね。一眼だけを持って出社して、帰りに寄り道をして写真を撮って…と、とにかく毎日撮りまくってたんです。信頼しているデザイナーの友人に「CGより写真の方がインパクトがあるから、写真をやった方がいいよ」とアドバイスをもらったり、写真家になった先輩が、普段はあまり褒めない人なのに「悪くないからやってみれば?」と言ってくれたり。そう言ってくれる人たちがいたから、これはアリかも!って自分でも思えたんですよね。写真が楽しくて仕方なかった。
CGの方も、大学院のツテでCGプロダクションに遊びに行ったときに、「結構丁寧につくっているから、やっていけるんじゃない?」と自分のアウトプットを褒めてもらえる機会があって。
うちにおいでよ、という話があったわけではないんですけど、そんな好意的な反応が後押しになりました。
写真には「フィットする」という感覚があった、ということですね。
そうですね。これは幼い頃からの受験の弊害なんですけど、何かの分野でいいアウトプットを出すためには時間をかける必要がある、という考えが染みついていて…でも本当はそうじゃないと思うんですよ。例えば、苦手なことに時間をかけてみたけれど、苦手だから納得のいくアウトプットに到達できないことってあるじゃないですか。だから時間をかければいいというわけじゃない、と頭では分かりつつも、長年かけて染みついてしまった思考から、時間をかけていないものに対して自信を持つのがなかなか難しかったんです。
なるほど。
CGや写真を通して、自分の中にあるビジュアルイメージに自信が持つことができて。特に写真は初めてその感覚が持てたというか、これだ!と思えたんですよね。得意なものを自分で見極めて、それを丁寧に感じながら生きていく方が、本人も周りも幸せなんだなと、写真をやってみて思いました。
肩書きにこだわらず、できることは何でもやりたい
BIRDMANに入社されたのは、それから9ヶ月後のことですね。
休職期間中はCGや写真のお仕事を単発で受けつつ、TED(TEDxTokyoyz)に参画して、モーショングラフィックスや写真のパートを手伝っていました。役職関係なく、コンセプティングのようなこともやって。
そんな感じで、紆余曲折というか、とにかくいろいろやってきたので、ポートフォリオの中身はてんでばらばらで。何かひとつに肩書きが決まっているわけではなくて、いろんなことができる状態になっていたので、こういう自分を必要としているのってどこなんだろう?と迷っていて。「コンポジッター募集してます!」とか、特定の肩書きを求めていることはあるけど、「いろんなことできる人募集」というのはあまりないので。だけど一般のCGプロダクションのような完全分業制の場所は自分にはちょっと合わないかな?と思ってたんですよね。
そこで、BIRDMANの面接を受けることになったと。
築地さん(代表)が面接のときに「うちに来たら写真ももちろんやっていいし、CGもそうだし。できること、やりたいことを幅広く持っていることが活きる環境だよ」と言ってくれて。そういう場所じゃないとやっていけないと思っていたので、もうここしかない!と。特殊な状態にあった自分ですが、こうして混ぜてもらえてありがたい、という気持ちでいます。
実際にメンバーとして働き始めて、どうでしたか?
入社後すぐにTOKYO DESIGNERS WEEKに出展した『ZEN TOILET』やANA『IS JAPAN COOL?』の北海道ロケなど、プロジェクションマッピングや撮影がメインの案件に加えてもらったんですけど、こんなにやりたいことを仕事としてできているなんて…本当に恵まれてるなあと思いましたね。CGをつくって、映像を撮って、カラコレして、編集して…めっちゃ好きなことやれてるな、と(笑)。
竹内さんがBIRDMANに加わってから、撮影を自社で手掛ける案件も増えてきましたよね。
そうですね。中でも『白い部屋からの脱出』は、撮影だけでなく、始めから終わりまでまるっと携わった案件でした。期間限定で実施されたイベント施策なのですが、プロジェクションマッピングのためのCGを使ったハードウェア的な検証や、キービジュアルの撮影、ティザームービーの撮影・編集、プロジェクションマッピングのコンテンツ作成、そしてアワードムービーの撮影・編集と、とにかく幅広くやっていて、BIRDMANのムービーチームならではの動きをしています。またWebコンテンツとは違い、作成したモーションがお客さんのインターフェースそのものになるので、最後の最後まで「どういう動きをしたら気持ちが良いか」というところをムービーチーム中心で突き詰めていきました。
できることは何でもやれる、というのがムービーチームの特徴であり魅力ですよね。
アニメーションやCGをつくったり映像を編集したりと、さまざまなパートを担当するので、一番多様性のあるチームだと思います。実際にメンバーそれぞれが得意とする分野も違えば、やりたいことも異なりますし。
映像は最終的なアウトプットとしてだけではなく、今後何かを考えていく過程にも必要とされていくものだと思っています。時間軸を持った経験を可視化できるのが映像。人の経験をデザインする過程には欠かせないものだと思うんです。
ムービーチームのリーダーとしては、「ムービーチームはこんなチームです」と定義してやることを狭めるのではなく、スキルを幅広く持っているチームであることを活かしたいなと思っています。メンバーの能力を最大限伸ばせるように貢献していきたいですね。
自分の感覚に素直でいたい
最後に、これから竹内さんが目指していきたいことについて教えてください。
些細な違和感に丁寧に気づけるかどうか、ってクリエイティブにおいてかなり重要だと思っていて。なんか色味がおかしいかもなとか、ここだけ画質が粗いかもとか、違和感に気づいて直すことの繰り返しがクオリティをより良くすることに繋がると思うんですね。
だけどこれってデザインだけじゃなくて、普段の生活にも言えることなんじゃないかなと思うんですよ。僕は「ぐりとぐらくらい、素直か?」という言葉を大事にしてるんですけど。
ぐりとぐらって、あの有名な絵本のキャラクターのことですよね。
そうそう。なんかすごく素直そうじゃないですか?(笑) 普段僕らは、誰かに会うのが億劫だなとか、何かをあまりやりたくないなとか、違和感を覚えているのに気づかないふりをしてやり過ごしてしまっていることがたくさんあると思うんです。でも、そういう気持ちになることには必ず原因があって。その原因となるものを解消してやればいいんですよね。自分の感情に丁寧に気づくことができれば、違和感を取り除くための行動が起こせる。よりフィットした自分に近づけるんじゃないかなって思うんです。
クリエイティブにおいても普段の生活においても、自分の感覚には常に素直でいたいですね。