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    IJC MUSEUM

    こんにちは。バードマン長井です。
    先日公開されたIJC MUSEUMの制作の舞台裏をレポートしたいと思います。


    <ABOUT
    コンセプトは「雲の上の美術館=クラウド上の美術館」。日本を代表する現代アーティストの作品を、世界中のどこからでも体感できるバーチャルミュージアム。クラウドでアート作品を再現するにあたり、WEBならではの特性を生かした表現の定着ができるかどうかは一つのポイントでした。映像インスタレーションをフルCGの360°動画で再現する。立体作品を3Dスキャンし、普段は観ることが出来ないアングルからも閲覧可能なものにする。細密な絵画はクロースアップでも鑑賞出来るような見せ方にするなど、WEB表現で相乗効果のある作品やアーティストのキュレーションとなっています。バードマンは企画、トータルディレクション、デザイン、3DCGWEB、インタビュー動画撮影を担当しました。

    <3D スキャン>

    3Dスキャンと言っても実は様々な方法があります。それこそミクロの世界の凹凸までスキャンできる超高精細なスキャナから、手軽でハンディーなスキャナーまで。今回「WEBブラウザで再現する」という点において最適なデータの作り方を探るところからスタートしました。検証の結果たどり着いた結論は、WEB上での表現としてはテクスチャをいかに良い状態で撮影するかが非常に大事だということ。形状としては最終的にポリゴン数をある程度落とさないと現状の一般的なPCやスマホのスペックでは負荷が大きくなるため、ディティールをある程度あきらめなくてはいけない。そこで形状的には細かな起伏は再現できていなくても、超リアルなテクスチャを表面に貼ることで、視覚的に形状を補ってくれてWEBでの見栄えとしてはリアルにすることが出来るのです。

    今回3つの立体作品をスキャンするにあたり、それぞれの方法や問題などがあったので紹介します。

    まず、Nerholさんの作品。


    WEB上での表現のポイントとして「写真(紙)の重なりを伝えること」。写真を数百枚重ね一枚一枚彫られた作品なので、その紙の厚さや重なりをリアルに伝えるのがポイントでした。そのために、形状ではなく、貼るテクスチャの方を高精細で撮影することを重視しました。形状はハンディーな3Dスキャナで撮影(データ上、紙の厚さまでは表現出来ていません)。もちろん形状も、最上級の機材を使えば紙の厚さも再現できるのですが、WEBで表現するためのポリゴン数(数万~10万ポリゴンを目安に)まで落としていくと結局紙の厚さは形状として残らなくなってしまうことが予想されたので、そこまでのクオリティーではスキャンしないことにしました。ただ、テクスチャの方を大判のカメラをつかって超高精細に撮影し、超高精細なテクスチャを貼ることでリアルな質感を再現することに成功しました。


    次に草間さんの「南瓜」。

    これに関しては、作品を所蔵している石見美術館(島根グラントワ)の方々にご協力頂きました。(内藤廣さん建築のめちゃめちゃ素敵な美術館です!)休館日に作品の展示室を1日お借りして、安定した光で撮影するために、部屋を真っ暗にしながら作品を撮影しました。この作品はサイズが大きいのと、非常に光沢がある素材感でしたので形状が読み取れない可能性が高く、最新鋭の高精細な3Dスキャニング機材を使用して撮影しました。やってみたところやはり、黒い部分に関しては全く形状が取得できませんでした。ただ、逆に黄色い部分は非常に綺麗に取得できていたので、あとでデータを補正して黒い部分を手作業で埋める作業でカバーしました。撮影自体は3Dスキャンに4~5時間、テクスチャ撮影に2時間程度かかりました。

    小畑さんの立体作品は、逆にマットな質感の黒だったため、非常に綺麗な形状を撮影することが出来ました。(サイトでは、4月公開予定です)


    被写体の大きさ、素材の色味や素材感、撮影環境、全体予算などによって、ベストなやり方があるので、事前の打ち合わせと機材選定はかなり重要になります。今回は、3DスキャンまわりのプロデュースをゼロシーセブンのZERO C SEVENの田村良則さんにお願いしました。経験や人脈から最適な機材選定や作業フローを立てて頂き、とても心強かったです。ありがとうございました!

    <3DCG → WEB GL>
    今回3DCGのベースはCINEMA 4Dで制作しています。CGチームと一緒に苦労したのは、WEB GLでスマホでもストレスなく見れる部屋をつくるために、リアルタイムの計算を極力減らした上でクオリティーを保つことにでした。やはり反射表現があるとCGとしてはグンとクオリティーが上がるのですが、その部分の処理がこれだけコンテンツボリュームが多いと重たくなってしまうので、テクスチャを全て写真で制作したりして、素材感としてのリアリティーを追求しました。建物のディティールには建築家の高塚章夫さんにアドバイスを頂きながら、実際の建築を参考にしつつディティールを詰めていきました。例えば、壁と床面にはほんの数センチ隙間があったり、実際の壁は職人の手で作られているので多少は歪んでいるはずということで、わざと少し歪ませたりなど、細かい部分のリアリティーを詰めていきました。




    次は機会があれば、反射表現も入れたWEB GLの表現にも挑戦してみたいです。

    <360°動画の制作>
    今回は束芋さんのヴェネチアビエンナーレでの映像インスタレーションを360°動画のフルCGで完全再現しました。束芋さんのアトリエにおじゃまして打ち合わせをし、模型をお借りして忠実に空間を再現しました。




    インスタレーション作品が5分以上の長尺のため、バードマン社内のマシンでは、レンダリングに20日くらいかかる計算となり、今回、ドイツのレンダーファーム Rebusをつかってレンダリングを試みました。実際に使ってみたところなんと2日もかからずにレンダリングが完了。これはCGで映像作品をつくるときには今後もかなり使えると思います。

    <インタビュー動画撮影>
    池田学さんは僕の予備校時代の恩師です。

    インタビューでは数年前に日本で個展でお会いして以来久しぶりの再開でした。今回、制作風景を撮影しにアメリカ・マディソンのチェゼン美術館まで行ってきました。






    アーティストレジデンスとして3年かけて大きな1枚の絵を毎日スタジオで描いています。ついに今年、完成予定だそうで、完成したら所属されているミヅマアートギャラリーで展示する予定とのことなので楽しみです!インタビューは常に2カメ体制で撮影。今回、会社で新しく購入したSonyのα7S2を使ってのロケだったのですが、かなり動画に特化されていて、ボディーに内蔵された手振れ補正、さらにデータもグレーディングされた絵なので階調がかなり残っていて、カラコレをするとぐっと雰囲気のあるいい感じになります。120fpsのスロー撮影もなんとフルHDで撮影できるので次回はその機能も試してみたいです。

    以上、今回の制作の舞台裏話でした。
    4月には、名和晃平さんと小畑多丘さんの部屋が追加更新の予定ですのでお楽しみに!